「島根で頑張る人」記念すべき100回目は、特別企画として島根大学准教授の毎熊浩一さんにお話を伺いました!!
――平成21年から「島根で頑張る人」の連載が始まりましたが、過去の記事を振り返ってみていかがですか。
まず、多くの方が共通して「感謝」を口にされていますね。みなさん脚光を浴びている人なんだけど、周りに支えられ頑張らせてもらっていると語る方がほとんど。そうじゃないと地域で長くは続けられない、ということですよね。あと、一般にニーズの重要性がよく語られますが、やっぱウォンツも大事だなと。「やりたい!」という気持ちとか夢とか。だからでしょう、みなさんポジティブですよね。とにかく明るく前向きな感じがします。
――毎熊さんが思う、「頑張る人」とは?
(この企画の中で言うと)「世のため人のため」に汗をかくいうことですかね。ただしこれは、自分を犠牲にして(=滅私奉公)、というのではなく…。出発点はあくまで「私(自分)」、でもそれを自分だけのことにとどめず、その課題認識や行動等を公(みんな)の世界へとつなげていく、あるいは、公共のことを自分ごととする、そんなイメージです。ある学者の言葉を借りて「活私開公」と表現してもいいでしょう。
――助成金の採択団体も多く登場していますが、昔と比べて変化は?
誠に僭越ながら、全体的にテクニカルな部分は上手になられたと思います。プレゼンが巧いとか、データを使うとか、ロジカルに考えるとか。昔は、持ち時間すべて自己紹介で使っちゃった、というような団体もありましたからね。それからNPO法人に限って言えば、NPOとしての連帯感とか一体感は、昔の方が強かったような気がします。
――NPOの連帯感が弱まったのは、なぜでしょうか。
直接的には、NPO法人だけが受け皿ではなくなってきている、ということでしょうね。例えば、一般社団法人は、NPO法人よりも比較的簡単につくることができます。また、最近ではソーシャルビジネスという言葉もよく聞かれますし、課題が解決できるのなら株式会社でもよい、といった向きも見られます。それはそれでよいのですが、こういった状況からはどうしてもNPO業界(セクター)としてのアイデンティティーは生まれにくいですよね。やはり「広く島根のために…」という認識のつながりが必要な気がします。それとも関連して、かねて気がかりなのが、(島根に限らず日本全体が)いわゆる「アドボカシー(=政策提言)」が弱いのではないか、ということです。例えば、いじめ問題にしても、子どもの相談にのることは勿論大事なことですけど、それだけでは不十分でしょう。そもそものいじめがなくならないと。対症療法だけではなく根本治療が必要というわけです。これはNPOだけではなかなか難しい。だからこそ、政治や行政、そして社会に対して、まさしく現場から声をあげていってもらいたい。そのためにも、やはりセクターとして力を持つことが重要だと思います。
――では、企業や県民に求められる役割はなんでしょうか。
企業は、基本的に本来業務をちゃんとやっていただくことが先決です。早い話、「ブラック」でないこと。しっかり金儲けし、給料はもちろん従業員の人間らしい生活も保障する。例えば、仕事が定時に終わるだけで、自治会とかPTAとかに出ようって人、増えると思いますよ。言うなれば、「社“会”貢献」の前に「社“内”貢献」!。もちろん、余力があるところは、NPOに寄付したりノウハウを提供したりしていただけるといいですよね。県民は、さしあたり少し意識を変えるだけでも十分だと思います。例えば、学生の就職。親御さんが「中小企業なんて…(子どもには就職させたくない)」と仰るわけですよ。まずはそういった意識を変えていかないと。あるいは、週に一回でも、全国チェーンではなく地元の店で買い物する、とか。それだけで地域経済はだいぶ変わりますよ。
――取材先の中には残念ながら解散してしまった団体もありますが、継続していく上で大事なことは?
「頑張る人」を読む限り、楽しくやられていること、周りの支えを得られていることだと思います。なかなか日の目を見ない、でも地道にコツコツやってきたって方が多いですよね。コツコツやれば必ず成功するとまでは言えないでしょうが、そうしないとうまくはいかない(長く続くことはまずない)。「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし」と言いますが、みなさん、少なくとも負けの要因となるようなものは排しておられるのだと思います。逆に、成功の要因は様々。よくヨソ者が大事、と言いますが、「頑張る人」のなかにはIターンだけじゃなくUターンも地元の方もおられますし、きっかけも、アプローチも、組織についての考え方もいろいろです。つまり、成功の方程式は一様ではない。だから、いかに負けないか。楽しくやる(無理しすぎない)、支えてもらう(独りよがりにならない)ということでしょう。
――最後に、島根の頑張る人たちにエールをお願いします!
僕なんかがエールを(笑)。先ほど話しましたように、NPO法人の人たちには、政策提言とかネットワークとかを期待したいところですが、より一般論として言えば、「頑張りすぎないで!」ですかね。これには二つ意味があります。一つに、「頑張る」をあまり限定的に使いたくない。僕はよく「等身大の参加」という表現を使いますが、地域づくりでは、みんながそれぞれの関心や立場等に応じて自分なりに頑張ればよい、というのが基本的な考えです。もう一つは、手の届きそうなロールモデルが欲しいということです。例えば、錦織圭、確かにカッコイイ。憧れます。でも、かなり遠い。まさに天空に輝くスターです。それはそれで大事ですが、特に子ども達へのリアルな影響という点からすると、「隣のおっちゃんが実は…」とか「あの大学生がそんなことを!」といった実例が身近にあふれていて欲しいと思うわけです。実際、地域づくりというのは、大半が地味な活動で成り立っているわけですし。というわけで…。この「島根で頑張る人」は、(キラキラ系は他の媒体に任せて)引き続き「地上の星」にスポットを当ててってください!
(N)