多彩なミッションの地域おこし協力隊を受け入れながら、近年非常に高い卒業後の定住率を誇っている自治体があります。それが日本海沖に浮かぶ離島地域の隠岐の島町です。地域おこし協力隊が地域に残れるポイントの1つは、自治体職員による活動や暮らしのサポート。隠岐の島町ではどのように隊員に伴走しているのか、地域振興課の田崎幸雄さん、舟木睦さんに話を聞きました。
「隊員の想いや悩みも含めて相談できる関係になってきましたね」と感慨深げに話す田崎さん。以前は協力隊とも仕事の連絡中心でしたが、今はプライベートも含めて事あるごとに話を聞いています。もしトラブルがあればすぐに個人面談や関係者を交えて話すことで、対策を講じるようにしているとのこと。自身もIターンの移住者である舟木さんもフットワーク軽く様々な現場に顔を出します。定着をサポートするため、観光や教育といった個別の協力隊の担当課とともに導入と伴走の目線合わせが欠かせません。
「隊員の活動内容は、1年目が勤務時間の100%が協力隊に課されているミッションのための活動だとしたら、2年目はミッションは70%にして、30%は副業や島に残るための活動をやってもらい、3年目は100%生業づくりで動いてもらうくらいがいいと思っています」。どうしたら任期後も島で暮らしていけるか、自治体職員も隊員と同じ目線で考えます。
そして特徴的なのが来年度の予算獲得のための作戦会議を隊員同士や自治体職員も交えて行っていること。隊員が行政の仕組みを理解し予算要求するのはハードルが高く、活動につまずきが起きやすいポイントなのですが、そこを逆に機会にして事業計画の壁打ちをしながら、仲間や理解者をつくる場に変えているのです。
隠岐の島町では、自治体職員と地域おこし協力隊員の垣根があまりありません。フラットに本音ベースで話し合える風通しの良さがあります。新たな人を受け入れ、地域というチームの担い手を増やしていくためにも、移住者目線のサポート体制と信頼関係づくりは欠かせません。
どういう人がどんなミッションで活動しているのか、その一部をご紹介します。
「島でいろいろな活動をされている地域おこし協力隊のみなさんに、私たちも元気をもらっています。地元の方、移住者の方、観光で来られた方、様々な方が出会う場になれば嬉しいです。ぜひ気軽にお越しください」
「ずっと何かをつくる仕事をやりたいと思っていました。」と笑顔で語る古賀さん。飯南町の地域おこし協力隊として2020年4月に着任し、大しめなわ創作館でしめ縄職人として活動しています。佐賀県鳥栖市の出身で、大学卒業後は百貨店や医療事務を経験。町との出会いは、前職を辞めて転職先を探していた際に登録した移住スカウトサービス。出雲大社が大好きだったのですが、隣町の飯南町からも案内がきて足を運んでみることに。
実際に訪れて印象的だったのは、地域の皆さんが気さくで親切だったこと。興味がある仕事でもあり、すぐに移住を決意しました。
しかし、移住当時はコロナ禍の真っ只中。地域の集まりも開催されず、「このままだと誰とも関わりができない」と感じ、協力隊の活動とは別に、地域の皆さんが集まる場所で週に1回のアルバイトを始めました。草刈りの手伝いや釣り堀の受付、飲食店のホールなど種類は様々でしたが、たくさんの人と知り合いになり次第に人の輪が広がっていきました。今ではイベントに参加すると半分以上の方が知り合いの時も。
普段は、しめ縄の制作や技術の継承、SNSを用いた広報等に携わっています。着任当初は「出雲大社の大しめ縄を作りたい」という思いでいっぱいでしたが、続けている内に「これらの技術や文化を残すことも大事である」という考えに変化してきました。町の小中学校で行う体験授業をはじめ、職人さんの作業風景を記録するための動画撮影も実施。「しめ縄に興味を持ってくれる人が1人でも増えると嬉しい」と話します。
任期後も大しめなわ創作館でしめ縄を作りながら、アルバイトを続け、副業で始めたデザインもやっていく予定です。最近は、地域の皆さんからのお願いも増えてきました。「せっかく出来たつながりをこれからも大事にしていきたい」と退任後の生活にも胸を膨らませています。
「世界遺産の石見銀山を調査していたら、すっかりこの地域のことが好きになって」。大学院で世界遺産に登録された地域に暮らす住民に着目して研究をしていた金田さんは、調査のため石見銀山のある大田市大森町に半年ほど滞在。世界遺産に登録されながらも、住民主体で自分たちの暮らしを何より大切にしながら、地域に誇りを持って住まう大森の魅力にすっかりハマり、2021年11月から地域おこし協力隊として大田市に着任しました。
群馬県出身で大学卒業後は大手旅行会社に4年ほど勤め、研究がしたいと会社を辞めて大学院に進学。卒業論文で調べた白川郷との比較で注目したのが石見銀山でした。大森町は人口減少が進む500人の町でしたが、折しも町づくりに想いをもって取り組んできた地元企業2社の取り組みなどが実を結び、移住者が増え、保育園に待機児童が出そうになるほどの盛況ぶり。地域の課題解決に取り組む「石見銀山みらいコンソーシアム」が立ち上がり金田さんは事務局に入って活躍中です。大森町の魅力をより深く知ってもらうため、前職の経験を活かし体験プログラムやスタディツアーの受け入れをしながら、持続可能な教育旅行の開発や、文化財の教育面での活用に取り組んでいます。
着任当初はコロナ禍により地域の集まりも少なかったですが、徐々に回復。プライベートでは2022年夏に結婚。パートナーも大森に移住し、地域の保育園や飲食店で働き始めたことで、様々な形で地域と繋がることができました。「今、すごく楽しいです」と確かな手応えを感じています。
「できることなら、大森に住む全員と話したいですね」。地域に住む様々な人にイベントに誘ってもらったり、アルバイトをさせてもらったり、食事をいただいたりとお世話になってきた金田さん。住民一人一人の話を聞いて、想いを受け継ぐところから、この町の次の一歩を探しています。
京都府出身の野尻さんは大学を卒業後、ホームセンター勤務、全国各地での農業体験を経て、2015年5月に地域おこし協力隊として安来市比田地区へ着任しました。
当時、比田では地域住民の想いを形にする「地域ビジョン」を作ろうと動き出していました。野尻さんは中心メンバーとして、地域住民へのアンケートやワークショップの実施など、多忙な日々を送ります。そして、地域を良くする88個の目標が決まり、その実現を目指す地域会社えーひだカンパニー株式会社(以下、「えーひだカンパニー」)が設立。野尻さんは地域の約80人がかかわるプロジェクトの中心メンバーとして今も活躍中です。
「農業をしたい」という夢が実現に向けて動き出したのは協力隊3年目、農地を借りられることになってからでした。かねてから興味のあった「れんこん」栽培を始めました。徐々に畑を大きくしながら、現在は栽培面積を2倍に広げ、大きなサイズのれんこんが収穫できるようになり、知人の紹介で飲食店にも販路が広がりました。れんこん農家とえーひだカンパニーの半農半Xが野尻さんのスタイルです。
えーひだカンパニーの取締役として、情報発信やネットショップの管理など販売促進に力を入れつつ、新事業を展開。小さな拠点づくり事業として比田地区で進めている地域内での移動販売事業や、カフェを併設した直売所も2023年3月にリニューアルオープンします。「地域にあってよかった、と言われるような事業や施設でありたい」と、野尻さんは話します。
「ひとつひとつ、地域の人々と話し合って進めていきたいですね」。これまで、じっくり自分や地域の人と向き合ったおかげで、今があるのです。数年前に地域の男性と結婚し、比田で生きていく決意を固めた野尻さん。「焦らずゆっくり、前向きに進めていきたい」と、これからも笑顔で地域と関わり続けていきます。
4年半前に、京都から島根県の益田市匹見町に着任した山本さん。家族が大きな病にかかったことがきっかけで、自分の健康を意識し始め「山水が飲める生活」に憧れようになりました。そんな時、益田市の林業をミッションにした地域おこし協力隊の存在を知り移住。2022年に協力隊を卒業し、現在はキャンプ場「匹見峡レストパーク」の管理運営や林業に関する研修プログラムの制作・実施を行っています。
「人口が少ないこの場所だからこそ、競争相手も少なく、自分にできる可能性が無限にあると思っています」。これまで山や林業とは無縁であったにも関わらず飛び込んだ山本さん。協力隊初年度は木を切る技術や知識・資格を習得。2年目からは自身で立ち上げた会社の運営を行いながら山を守り育てながら行う自伐型林業を目指し山に入っていきました。
そして3年目を前にキャンプ場の運営をお願いできないかという話が舞い込みます。未知の事業でしたが、これまでやってきた林業の経験も生かしながら、協力隊後に自分たちが活動をする拠点としてうってつけだと考え、委託を受けることに決めました。
担い手不足は、裏を返せば「手を挙げればチャンスを掴める」ということ。自分の理想があるからこそ、掴めるチャンスはたくさんあります。
また、協力隊期間中に妊娠・出産も経験した山本さん。協力隊任期中に産休育休の制度を活用できたことが、今も活動を続けられる一つの要因であると話してくれました。
最近、憧れの薪ストーブを手に入れ一歩ずつ理想の暮らしに近づいていると実感します。過疎発祥の地と言われる益田市匹見町。人口減少が進む地域ではありますが、人のあたたかさと、季節によって移ろう美しい自然と豊かな水を感じられるこの場所を山本さんはとても気に入っています。この魅力を匹見峡レストパークを訪れてくれた人に少しでも伝えていきたいと考えています。
3大都市圏を中心とした都市住民が過疎地域を始めとした条件不利地域に移住(住民票を移動)し、地域おこし活動の支援や農林漁業の応援、住民の生活支援など「地域協力活動」に従事し、あわせてその定住・定着を図りながら、地域の活性化に貢献するものです。
全国各地の地方公共団体(主に市町村)がそれぞれの地域の状況に合わせた活動内容で隊員を募集し、選考プロセスを経て「地域おこし協力隊員」として委嘱します。隊員の任期は概ね1年以上3年未満です。地方公共団体が隊員の活動にかけた経費に対し、国が財政支援する仕組みになっています。隊員一人あたり年間480万円が上限で、そのうち報償費の上限が280万円、それ以外の経費の上限が200万円となっています。
平成21年に総務省が制度化し、初年度は31団体89名の隊員でしたが、令和3年度には隊員数が6000名を越え、1000団体を越える地方公共団体が取り組んでいます。
各市町村やミッションにより地域おこし協力隊の活動内容はさまざまです。任用形態も会計年度任用職員として自治体に雇用される場合や個人事業主として委託される場合などさまざま。また、隊員になる人の年齢層は20代〜30代が7割を占めますが、10代から60代まで幅広く分布しています。
多様な地域おこし協力隊ですが、共通しているのは「地域に根ざす」ということ。地域に学び、地域と交わり、地域の力を高めて、新たな未来を拓きます。
「大人の島留学・島体験」プロジェクトは、地域おこし協力隊制度を活用した新たな取り組みです。2020年度に海士町で始まり、2022年度からは西ノ島町、知夫村とともに隠岐島前地域での取り組みとして、一般財団法人島前ふるさと魅力化財団が運営しています。全国各地の社会人・学生を問わず、20代の若者を対象にした離島での1年間お試し移住制度を「大人の島留学」、全国各地の学生を対象とした島の暮らしと仕事を考える3ヶ月のインターンシップ制度を「島体験」と呼んでいます。立ち上げから2年間で、およそ200名にも及ぶ若者が制度を活用し、創設されて3年目となる今年も多くの若者が島外からやってくる見込みです。
松江市出身で、東京の大学に通う古藤さん。大学4年時に休学し、島体験生として海士町にやってきました。着任後は様々な現場で活動しています。島前ふるさと魅力化財団では島体験生のサポート業務、観光協会では海中展望船のガイドや、ホテルのベッドメイキングを担当。観光分野に興味を持ち、島の宿の集客を考える企画にも関わるようになりました。色々な経験を重ねていく内に、将来の働く場所や生活に囚われすぎていたことに気づきます。「未来のために今を頑張るのではなく、『今のために今を頑張る』ことが大事だと思えるようになりました」と古藤さんは迷いのない笑顔で話します。
沖縄県出身で、島体験を経て大人の島留学中の金城さん。はじめの3ヶ月間は島内の小学校で勤務し、現在は、島前ふるさと魅力化財団の運営事務局で総務を担当しています。また株式会社海士という会社でバイトの採用人事にも関わっています。本プロジェクトの醍醐味は「短期間で多様な仕事を経験できる」こと。島での様々な現場を経て声がかかり、金城さんは海士町で就職予定。本格的な島暮らしが始まります。
2022年度
初任者研修会(オンライン)
2022年度
地域おこし協力隊全体研修会
@出雲(スキル×スキルゲーム)
2021年度
視察研修@隠岐の島町
2022年度
協力隊の縁側@カフェIrohaco(川本町)