地域の暮らしを良くする“みんなのチャレンジ”が溢れる雲南市を目指して
桜並木が続く斐伊川沿いから一本脇道に入ると、商店街の一角に「三日市ラボ」と書かれた白い扉。その中にはスケジュールやマップが書かれた大きな黒板。そして、スタッフがPCを並べてオンライン会議中。静かな町の風景とは正反対のにぎやかな空間が広がっている。小俣さんが代表理事を務めるNPO法人おっちラボの拠点となる場所だ。
今から4年前、小俣さんは初めて島根に足を踏み入れた。それまでは東京で弁護士として活躍していたが、知人から島根で働かないかと誘われたことがきっかけで、雲南市の地域活性化の取り組みを知った。そして「ここならもっと俯瞰的な視点で社会をよくすることができる」と思い、雲南市へ単身Iターン。小俣さんのチャレンジがスタートした。
小俣さんは、おっちラボが雲南市から受託運営する「幸雲南塾」でコーディネーターに就任し、地域の未来をつくるローカルチャレンジャーの育成を行っている。塾生の多くは、地域の課題解決に関心が強いものの、それを1人で実践するのは難しい。そこで小俣さんは、企業や地域のキーマンとのつながり作りを支援し、周囲との協働を後押ししてきた。また、事業運営のコーチングをすることで、塾生がより実践的に学べるように工夫しているという。地域のリーダー的存在として、周囲の人と協働しながらプロジェクトを実行する卒業生も増えてきた。地域で地元食材を使ったカフェをオープンしたり、買い物弱者を支える仕組みを作るなど、地域活性のための様々な活動を展開している。これまで約70のプロジェクトが立ち上げられ、うち約9割もの事業者が現在も持続して活動を行っている。
「地域の人や外からやってきたチャレンジャーが常に動き続けることで、地域は進化していく」と小俣さんは考える。誰もがすぐに実行でき、失敗しても改善して次に生かすというサイクルが回っていくことで、地域自体が持続していくのだ。
多くのチャレンジャーを生み出してきた幸雲南塾。しかしながら、現在のマンツーマン指導のままでは限界があると感じるようになってきた。より多くの人に挑戦してもらうには新しい仕組みが必要となったため、今後はゼミ形式を取り入れ、塾生同士で意見交換をしながら学べる体制にしたいと考えている。これによって、おっちラボのコーチングを塾生同士で共有し、より効率良くかつ広い視点で学習をすることができるようになる。幸雲南塾自体も進化をしながらチャレンジャー育成のプロ集団となっていくのだ。
今後の計画では、地域のためのコミュニティー財団を創設し、住民参加型で資金の使い道を決定する組織を作る。そして、チャレンジしたい人に対して周囲が応援してくれる仕組みを作り出し、“チャレンジにやさしいまち”の実現を目指す。
地域のためにやることは山積みだ。しかしチャレンジャーを応援するために自分にできることは何でもしたい。小俣さんの“チャレンジ”はまだまだ続く。
(F)