里山に広がる共同の輪
今秋、小さな里山から炭蓄電器「TANDEN」が誕生した。自然エネルギーを利用した半永久的に使える環境に優しい製品として、期待と注目を集めている。竹林問題が年々深刻化する中で、竹林を地域資源とし、竹炭に利用する取り組みだ。この製造に深く関わっているのが雲南市宇山地区を拠点に活動する“里山照らし隊”の副隊長、須山光雄さんである。
照らし隊が発足したのは去年5月。炭畜電器の実証実験の場所を探していた同地区出身の開発者から相談を受けたのがきっかけだ。その後、地元住民らで営農組合の倉庫を借り、製造を請け負うことになった。須山さんは「ちゃんとやるなら、かけもちは無理」と長年勤めていた建設会社を退職。そのまま工場長に就任した。
「自分達が作った機械が、電気のない所に灯りを灯していく。災害時には携帯の充電にも使用できる。いろいろ想像してわくわくするよ」と話す須山さん。
地元の住民が協力して裏山にはびこる竹を切り出して炭にし、畜電器を製造する一連の取り組みは、昔からこの地に伝わる「共同」の理念と通ずるものがあるという。しかも、里山保全だけでなく、地元の雇用創出にもつながるというから一石二鳥だ。
工場では現在9名の作業メンバーがおり、まだ毎日の作業はないが今後の多様な活用に期待を膨らませながら、毎週火曜に製造組立作業を行っている。
将来的には、このノウハウを他の、中山間地域にも普及していきたいという熱い思いも語ってくれた。
須山さんは、他にも草刈応援隊や田んぼアートといったユニークな事業にも携わっている。これらは皆、町内外から集まった30代の若い隊員達のアイデアから生まれた。
自分にはない発想で面白い事を思いつく若い隊員に刺激を受けていると話す須山さんは、人と人が繋がり、じわりじわりと宇山にリピーターが集まっているのを実感しているという。集客の秘訣を尋ねると「“面白そうな事”と“自分らも楽しむ事”」だと須山さんは語る。町外からの参加者だけでなく、地元の人も共に楽しめる交流イベントを常に意識しているのだ。
SNSでの広報も成功しているようだ。最近は若者が地域行事に参加しなくなったと言われるが、宇山には、若い人たちが声を掛け合い、互いを巻き込むスタイルが定着しつつある。地道な努力ではあるが、ここにも宇山の「共同」の精神が強く反映されている。
アイデアを出す若い隊員が主役で、それを年配の隊員達が全力でサポートするという姿勢も徹底している。「里山照らし隊が本業だ」と言ってくれる若い隊員がいるのも非常に頼もしいと語る須山さん。自身も若い隊員から刺激を受け、SNSを始めた。最後に「フェイスブックに、いいねがあると嬉しいね~」と笑顔でスマホを見せてくれた。
今後も外部の人材を巻き込みながら、この宇山にどんな「共同」の輪が広がっていくのか楽しみである。
(T)